コラム「異見と意見」COLUMN
テロ事件と私達
18世紀の後半に始まった産業革命は、その後めざましい発展を遂げた。その中でも20世紀後半からの驚異的な発展は、先進諸国に生活革命とも云える物質的豊かさをもたらし、宇宙を身近なものとし、またインターネットに象徴される通信革命は、時間と空間に関する認識を一変させた。一方で20世紀は、2つの世界大戦、多くの独立戦争、民族紛争、さらにはロシア革命、イラン革命等、政治や宗教の暴走とも云える人災により多くの殺りくと経済混乱を繰り返し、それに加えて、各国に発生した地震、洪水などの天災により、国家間、個人間での貧富の差の拡大や悲劇をもたらした世紀でもあった。
大戦による荒廃から奇跡の復興を遂げ、物質的には世界第2位の経済大国にまでなった日本は、過剰な自由と拝金主義が引起こした心の荒廃、社会不安そして経済の低迷により、20世紀最後の10年間を、自信喪失とも云える状態で過ごし21世紀を迎えた。
本年は、世界中が新しい繁栄と平和への願いを込めて迎えた21世紀最初の年であったが、9月11日にアメリカで発生した同時多発テロと云う、民間機を武器にして多数の一般市民が働くビルに激突、崩壊させるという前例のない、衝撃的な事件で象徴される年となった。新世紀幕開けのこの年に起った悲惨な事件は、その発生地アメリカだけの問題としてではなく、全世界の問題として、私達一人一人が考えるべきものであろう。
この悲惨な事件に対する報復とテロ組織の撲滅のため、武力行使に踏み切ったアメリカに対して、日本を含む世界中の国々から、多くの支援と共に非難の声もある。対応手段については「軍事力でなく平和的な方法をとるべきだ」と云い、原因については「経済大国であると同時に世界唯一の軍事超大国となったアメリカの片寄った世界戦略が問題」と云うものがある。賛成だけでなく、反対する意見がある事は社会が正常である証拠であると云えよう。私は、物質文明発展の中で取り残された心の荒廃と、テロ組織を生む国々の政治の貧困が主たる原因であると思っている。
もし、このテロ事件を誘発した原因の一部がアメリカにあったとして、私達がアメリカの軍事行動を非難できるだろうか。アメリカにとっては、これまで連続して受けてきた、政府機関、軍事施設そして同じ貿易センタービルへの爆破テロ攻撃に続く今回の同時多発テロ事件。このテロの犯行声明も、世界に訴えるべき明らかな理由も示されて無い。その中で、これ以上のテロ事件を防ぐ為の、ただちに効果が期待できる平和的手段があるのだろうか。
世界が平和的手段による取組みを模索している間にも、テロ組織はその育成機関を通じて益々増大、凶悪化を続けるだろう。彼等には彼等の論理があり、その行動は少しも変わらず、そして増殖は続くかも知れない。従って、一時的にでもその増殖を止めあるいは縮小する為に軍事力を使う事はそれなりに有効かも知れない。問題は、軍事力が全てではないと云う事だと思う。
その為私達は、アメリカの行動を見ているだけでなく、あるいは軍事力に協力する、また非難するだけでなく、夫々の国、政治、企業を含む組織や団体、あるいは個々人が、夫々の立場に応じて、夫々の出来る事を通じて、テロ事件発生の原因を考え、根絶のための取組みをするべきだと思う。テロの原因には政治思想や政治の貧困、民族、宗教、貧富の差など、歴史的文化的背景があると思う。しかし人間社会でその相違をなくす事は不可能と云えよう。また相違をなくす事が良いとも云えない。
それならば、夫々の差、相違を認め合う事が大切ではないだろうか。私は、戦後の荒廃から立上るために進めて来た物質的豊かさの追求が、経済大国になった今も続けられている事が、日本人の心の荒廃を招き、社会の歪みを拡大していると考えている人間の一人である。世界の中でも、政治の貧困、経済優先主義とそれに伴う貧富の差、人の心の荒廃、それに起因する社会の否がテロ事件の原因の一つになっているに違いない。
そこで私は一人の人間として、一人の経営者として、今自分に出来る事を通じて、社会の、そして世界の平和と発展に貢献したいと考え、その基本を経営理念(ホームページ参照)として定め、当社の経営に当たっている。日常的には売上高・利益優先主義ではなく、社会の一員としての会社(企業市民)と社員の成長を重点目標に定めて取組んでいる。その中には、インターン制度による異文化の国の人の職場受入れ、あるいは毎年実施の社員海外体験旅行など、異国文化を理解し、認め合える社員の育成などもある。世界の、社会の平和と健全な発展の基本は、一人一人の人間、その心にあると思う。
21世紀第2年目の年明けも近い。来年は今年より良い年にしたい。私達一人一人が、この一年を振り返り、考え、それぞれにベストを尽くして生きたことを称え、新しい年を迎えたいものだ。
(2001.12.20 記)