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コラム「異見と意見」COLUMN

経済不況ではなく、人材不況の日本

去る6月、当社恒例の社員アメリカ体験旅行で、社員4人を連れてカリフォルニア州(サンフランシスコ、シリコンバレー、ソノマバレー)、ネバタ州(ラスベガス)、アリゾナ州(グランドキャニオン)、そしてミネソタ州(ミネアポリス、セントポール)を12日間かけて廻って来た。

ミネソタでは、私が駐日代表を務めるローズビル市のホテルで日米協会の定例会があり、そこで当社の経営理念について講演する事になった。これは、当社が毎年アメリカの大学からインターンとして受入れている学生達が帰国する度に、「アメリカで聞いていた日本企業のイメージとは違う、極めてユニークな会社」として、当社での体験が報告されているからである。

当日、日米協会事務局の担当者と予備打合せをしたところ、「日本経済の実態と今後について世界中が注目しているのに、エコノミストや経営学者、あるいは政治家達の話は全く信用できぬ。実業界で実際に会社経営に当っている者としての意見を、NCKの経営理念と共に講演願いたい。」と要請された。

日本は世界第2の経済大国として、日本だけが豊かであれば良いというのではなく、世界第1の経済大国であるアメリカと共に、世界の繁栄に貢献することが期待されており、それは責務でもある。それにもかかわらず、日本経済は過去10年以上にわたって低迷しているだけでなく、その回復をアメリカ経済に頼っているとさえ言えるのが現状である。日本国民自身、日本に対する世界からの熱い期待があることに無関心で、むしろ自分も不況の被害者との意識が強く、その回復を他人任せにしている風潮がある。そういった日本に、世界は苛立ちを越えて、無気力、無策の過去の国として葬り去ろうとさえしている。

私は、そういう認識の下で次のような主旨の講演をした。  現在の日本は、経済不況にあるのではなく、人材不況。人材問題はあっても経済問題など無い。日本には、戦後50年以上にわたる努力の結果として、世界一の個人金融資産(資金)、世界でもトップレベルの技術力とインフラ、そして良質な労働者(指示を良く理解し、期待に応える働きをする人)という、経済活動に必要なエレメントは全て揃っている。

問題は、これらのエレメントを用いて経済活動に活かせる人材が居ないだけである。極端な表現をするなら、「指示待ち人間」、あるいは「使われるには優秀な人」、または「決められたことを効率よく、忠実に守る、管理という作業の出来る人」は沢山居るが、それらの人を含む経済エレメントを戦略的に使える人、言い換えればマネージメントの出来る人材が殆ど居ないという事である。

その証拠として一例を挙げるなら、あの瀕死の状態にあった日産自動車が、カルロス・ゴーンという外国人経営者を持って来てマネージメントを一任したら、たちまち優良会社といわれるまでに甦った。そのゴーン氏が、「フランスではなく、優秀なエレメントのある日本だからこそ、こういう事が出来た。」と言っている。

日本は、今こそ人材育成に本気で取り組むべきだ。これまでのように、欧米を真似たり、誰かの指示があればよく働く、指示待ち、他人依存型人材から、自らリスクを負い、今何をやるべきかを決断し、責任を持って物事にチャレンジする自立型人材こそが、21世紀を生き抜くために重要な人材である。

そういう認識の下に、当社は3つの経営理念と、2つの日常行動指針の下、売上高や企業規模の拡大ではなく、人育てを最重点課題とした経営に取り組んでいる。人育てのポイントは、自社利益最優先として忠実に働く企業戦士育て、あるいは他社依存型人育てではなく、社会や企業とGive&Takeの関係を維持できる自立した社会人、職業人育てである。この厳しい現代社会にあって、こういう経営は一見効率の悪い損な経営といえるかもしれない。しかし日本の過去の経験と現状を冷静に分析すれば、こういう経営こそが長期的視点では最も効率良い経営といえるのではないだろうか。当社は、困難さを承知の上で、この経営にチャレンジしている。

(2002.08.20 記)

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